全国商工会青年部連合会
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連続小説 商工BOYS 第2回 〜青年部入部編〜  著:栃木県青連 高野ゆうじ
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その日も私は、いつもように書店の店番。
ゴールデンウィークも終わり
朝のうちはTシャツでは寒いけど昼はTシャツじゃなきゃ、というような頃
いつものようにベタなメロディーが店内に流れ、自動ドアは開いた。
(あのメロディー音、どうにかならんか、石原良純にでも頼むか?)

私は、一般のお客様が入店して来たのだろうと油断していた。
いや、油断していたというと私に非があるようだが
ドアが開いてから、そちらに目を向けるのが一瞬遅れただけ、ほんの一瞬。
(そういうものでしょ、店番て!)

でもその一瞬で、小宮山さんはドアからレジまでを移動した。
「強盗か忍びの者?」とでも思しき「すり足猛ダッシュ!」で。
(そんな登場ありえない!)
(デンジマンでもあるまいし!)

「商工会青年部の小宮山です。お願いがあって来ました。」
気付いたときには、小宮山さんは、礼儀正しく名乗り、用を告げ、私を直視していた。
私はその瞬間、「来たか、強盗」と、半ば命をあきらめる覚悟さえしたくらい。
(カメラはその瞬間を!的なTV番組の見すぎでしょうか↓)

レジの現金を差し出す準備に入ろうとしていた私は
登場の異常さとはあまりにもギャップのある、実に社会人らしい挨拶にさらに意表をつかれ
状況を把握するのに数秒かかり、「はい!」と後頭部付近で返事をしてしまった。
(思いもよらない高い声って出るものです)
(追いつけ追い越せ、スーザン・ボイル)

そんな私の状況とは関係なく、小宮山さんは時計をしていないのに腕を指差しながら
「話す時間、あるかな?」
「…ありますけど…」
私はありったけの冷静を装いなんとか答えた。
「お母さんの店でお茶でも飲みながらってのは?」
「ええ…、じゃあ、これ閉めてから行きますから、先に…」
隣の喫茶を指差しながら、あくまでもジェスチャーをする小宮山さんに
その指差しジェスチャーをパロれる余裕が私にもあります、という意味で
レジを指差しながら、ありったけの低音で伝えた。
「じゃあ、先に行っていますからね」
こちらの意図は一切伝わらず、マイペースで小宮山さんは喫茶に向かった。
(小宮山?誰だろう?お願いって何だろう?)
私は、強盗に渡さなくて済んだ現金を数え、バックにしまい
この町に詳しくて、小宮山さんて人、を知ってそうな人が誰かいないか、いろいろ考えながらレジを閉めた。
(ああ、お袋に聞けばいいんじゃん)(そうだそうだ)(あ、ダメだ、お袋のところに行ったんだ)

デート中、トイレに行って帰りをなるべく早くしなきゃ、という焦りにも似た
それは、「大」の方だと思われたくないからだけど、要するに、早く行かなきゃ、と思いながら
「御用の方は、マンハッタン・カフェまで」というプレートを表ドアにかけて、隣に向かった。
(お客をみすみす逃がすような悪しき風習ヨロシク)

「カランコロンカラン」定番の鈴の音が響き渡る店内で
(この鈴の音もどうにかならんかな、石原良純に?もういいか!)
こちらを一瞥もせずに手を洗う母は、小宮山さんに何か質問をされたらしく
「そうですね」と、素っ気無く答えながら、淡々とコーヒーを入れる準備に入ろうとしていた。
小宮山さんはカウンターに座りながら半身になって振り向き
「ホットコーヒー、頼んだけど…」
「はい、じゃ、同じでお願いします」
私は、ひとつ空けて座りたいところを、なめられてはいけないという変な判断で小宮山さんの隣に座った。
(そういう少し考えすぎなところあります、私)

早く用件を話したそうな小宮山さんを察して
母は、小宮山さんがカウンターに置いたタバコとジッポについて質問をした。
「かっこいいタバコとライターですね!」
「ああ、男のこだわりみたいなものですかね!」
「あら、そういうの素敵ね!」
母は、思ってもないだろうに、空々しい言い方で軽く返した。
(さすがだ、母上様)
嬉しそうな小宮山さんは、ジッポをよく見える角度にしながら、タバコに火をつけた。
(単純だな、この人)

「そのタバコのマーク、見たことありますね、F1かな〜?」
母のマネをして、私も話を膨らまそうとした。
「あれ、そっち?」
小宮山さんは、タバコではなく、ジッポに触れてほしかったようで
「それより、このジッポがね!なんちゃらかんちゃら〜〜〜〜〜」
(余計なマネをした私)
その辺のことに全く興味が無い私は、聞いているフリをしながら、100円ライターでタバコに火をつけた。
(小物にこだわる人とかかわると、面倒臭いことになるんだよな〜)
灰皿に手を伸ばし手元に引きながら、これから始まる話が面倒臭いことになりそうな予感がしていた。
(予感、的中・し・そ・う)

「で、今日は何の話?」
その話長くなるな、と感じた母は、自分でその話を振ったくせに、あっけなくカットイン。
もう少しその話で、と乗りかけていた小宮山さんは、勿体ないって顔をしながら渋々本題に入った。
本題の後にその話続けたい、という残尿感たっぷりで…。
(ここまで、すべて母のペース)
(この家も、すべて母のペースだけど…)

「そうそう、高堀さんちって、商工会の会員ですよね?」
「どうでしょう?」
とぼけた言い方の母の顔と、会員なのは確認している小宮山さんの顔を交互に見ながら
質問とその答え、その両方がわからない私は会話に入れず、長く感じる10秒ほどの沈黙に耐えた。
(沈黙は金なり)(それがなかなかできないもので)

「息子さんに青年部に入って欲しいんですけど、どうですかね?」
小宮山さんは、それでも本題に向かった。
「どうです〜か〜ね〜?」
母は、完全に状況を把握しているくせに、ゆっくりとした語尾で間合いをとり
「いいから黙ってなさい」という空気をかもしだした。
(母はやり手の弁護士になれそうだな!)

「まだこっちに帰ってきたばかりで、何にもわからないからね、この人」
母は、水の中に三角の小さいレモンスライスの入った細身のグラスを小宮山さん差し出しながら
我慢できずに、「何それ?」という顔をしている私に
「いいから黙ってなさい」という空気をさらに強くかもしだした。
(この弁護士に任せておけばいいらしい…)

本丸を落とすのは難しいと判断した小宮山さんは、水を一口飲んで、
「仲間に入ってほしいんだけど、どう?」
本丸の石垣にぶら下がるだけの私に狙いをかえた。
(どう?と言われても…)
(私、人生、初めての黙秘権!)

私を試しているのか、任せてくれたのか、母は黙って背中を向けた。
(あれれ、弁護士さん〜、弁護士さん!)
(はっはん、自分で解決しろということですかね!じゃあ、解決しちゃいますかね〜)
「青年部って、その、さっきおっしゃっていた商工会青年部って、なんですか?」
(ずばっと、言ってやりましたけど、私)

「あっ、ええと、商工会員の後継者(あととり)の集まりかな。」
「後継者(あととり)?」
「後継者(あととり)でしょ!高堀君!」
「後を継いだつもりはないですけど…」
「後継者(あととり)でしょ!」
「手伝いというか…」
「そうなんですか、お母さん?」
「バイトみたいなものでしょ!」
母の言葉は、コーヒーサイフォンのゴゴーという音に消されて、よく聞こえなかった。
(実際、バイトみたいなもんだな〜)

「手伝いもバイトも跡取りも一緒でしょ!」
「バイトは違うでしょ!」
どうでもいいやり取りが、どうでもいい時間流れていきそうな気配を感じた小宮山さんは
「まあ、その跡取りかどうかの問題はいいとして、跡取りのような若い人の集まりに入って欲しいの!」
「なんか、そういうのって入ると大変そうなイメージあるんですよね、ぶっちゃけ」
「全然、大変じゃないよ!楽しいよ!」
「まあ、急に言われても〜。」
「返事は今日じゃなくていいし!」
(ほら、弁護してくれないから話が進んでいくでしょうが)

「まあ、だいたい、もう青年でも無いですけど〜」
話の方向を少し変えたほうがいいかなと思い、なんとなく思い付きで返した。
「40歳までは青年だから」
「40で青年ですか?」
「部長の俺が38だから。」
「38?」
「見えない?」
(話の方向変わらず、さらに話は具体的に進む、の巻)

「あっ、高堀君いくつ?」
「31です」
「ちょうどいいよ!」
「ちょうどいいって?」
「ちょうどいいよ!何するにもこれからっていう時でしょう!まさに新しいことするにはもってこいでしょう!」
(新しいことを始めるには、もう遅いような気がしていますけど…)

「何をする部なんですか?」
「お祭りとか旅行とか」
「お祭りねっ、ああ、ああ」
「なんとなくわかった?」
「ええ、なんとなく、なんかお祭りの手伝いする若いのか若くないのか、みたいな人たちの集りですね」
「ま、そんなところかな?」
(話を変えようとしては、そちらに向かっているような感じになってます、たぶん)
(弁護士、何処行った?)

「何人ぐらい、いるんですか?」
小宮山さんは、指を折って数えながら
「7人かな?俺入れて8人かな?名前だけ入っている幽霊部員も入れたら15人ぐらいかな?」
「幽霊?」

「ど・う・ぞ」
小宮山さんにコーヒーを出した母は、残りのコーヒーを私用のカップと母用のカップに注ぎ
もう完全に弁護士席から傍聴席に移動した様子で、折りたたみ式の椅子を片手で広げてチョコンと座った。
カウンターの上の8匹の猫に視線を送り、むしろ、無関心な表情で「どうぞ、どうぞ」と手で促した。
「いただきます!」
小宮山さんは、ソーサーごと引き寄せながら、軽くフーフーして、一口すすった。なかなかの猫舌風。

母はその人のイメージでコーヒーカップを選ぶ。微妙な色と形のカップが選択されていることに、私は笑った。
フーフーしながら、結局、ほとんど飲めない小宮山さんは
「このコーヒーカップ、なんとも言えない、なんかいいな!」
そのコメントを、私と母は当然スルーした。
「ねっ!」
(母は、あなたを変わり者だと判断したわけですけど…お喜びのようで、何よりです!)

「幽霊って、何ですか?」
「ああ、在籍はしているけど、なかなか参加してくれない部員」
「ああ、そういう手もあるんですね」
「いやいや、ホントは困るんだけど、どうしてもそういう人がいるということ」
「楽しそうなのかどうか、入ってから感じることもあるでしょうからね〜」
「いやいや、楽しいよ」
「でも、幽霊はいるわけでしょ!」
「まあね」
「具体的に、どういうことをするんですか?」
未だ、フーフーしながら、ろくに飲めない小宮山さんは。
「…ん?何が?」
「青年部の活動ですけど」
「ああ、ええと、どういうことって言うか、それを考えてもらおうと思って」
「はあ?」
「新しいことをやりたいんだよ!」
「新しいこと?」
「みんなが楽しめて、意味のあること」
「楽しめて?意味?」
「何がいいか、考えてくれないかな?」
「考えてって、俺が、ですか?」
「君が!」
「なんで俺が考えるんですか?」

小宮山さんはコーヒーをやっと一口飲んで、「やっぱり、あちっ」という顔をしながら
「小室製作所の小室さんに、高堀さんとこの息子さんが芸能界で働いていたって聞いて…」
「小室!!!」
思わず、母と二人で、いやな物を言う言い方でユニゾンしてしまった。
あまりに綺麗なユニゾンに、小宮山さんはびっくりしながら、二人の顔を交互に見ていた。

つづく
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