全国商工会青年部連合会
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連続小説 商工BOYS 第3回 〜青年部入部編〜  著:栃木県青連 高野ゆうじ
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マンハッタン・カフェには常連がいる。
田舎の喫茶店だから、母の友達や近所の知り合いが大筋のそれだが
コーヒーの香りに惚れたという理由で常連になった珍しい人がいる。
(珍しいなんていったら母には悪いが…)
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それが小室さん。
40代後半の、見事なずんぐりむっくり、リーゼントとパンチの中間の髪型
真夏でもジーパンと革ジャン、ジャラジャラしたチェーンがついた長財布
自動車部品の製作所を経営しているわりに大人になり切れていない、典型的な元ヤンだ。
パパサンと呼ばれるハーレーにまたがり、原付の高校生に抜かれるような速度でゆっくり悠々と走り
(たぶん、怖がりで飛ばせないという噂)
いつも、ガニマタのイカリガタで登場する。

もうひとりがママレモン。
おばさんなのか若いのかが判断し難い、40代後半のボーイッシュフェイス
茶髪のワンレンをかきあげながら、革ベースのハードな私服
(たぶん、W浅野のころのどっちかというイメージ???)
スナック「檸檬」の経営者でママ、こちらも典型的な元ヤンだ。
くわえ煙草でグラサン越しに鋭い眼差し、ミニクーパーのセンターマフラー音を轟かせて登場する。
みんなにママレモンと呼ばれては
「レモンママでしょうが、あたしゃ、台所用か!」
「洗ってあげてもいいけどね〜」と切り替えしている。
(洗われた日にゃあ、どうなることやら…、恐ろしや…)

ふたりは、ほとんど夕方をマンハッタンで過ごす。
見るからに酒豪という風貌なのに、顔に似合わずコーヒーにこだわる、違いのわかる男と女らしい。
(コーヒー以外の違いは、一切わかってないと思うけど…)

私が帰ってきた当時は、「芸能人の誰を見た」とか「誰がカツラ」とか「誰が整形」とか
そんなゴシップばかりを聞いてくるような、とにかく元気でウルサイふたり。
学生時代付き合っていたという噂もあるが、それが本当なんじゃない、という程に息の合った間合いで、小室さんがボケならばママはつっこみ。
(場合によってはWボケという要素もあるけど)
ただ、付き合っていたかどうかの事実確認は誰もしない、というか、触れてはいけない暗黙のそれ。
(まあ、どうでもいいといえばどうでもいいし)
(誰も厄介なことに首を突っ込まないだけ)

その日も、「あうん」の呼吸で現れた。
駐車場にはパパサンとママクーパー。
小室さんが例のガニマタのイカリガタ、すぐ後ろをいそいそとママレモン。
(まさに、パパス&ママス)
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「見事な同伴出勤ですね!」
鈴の音の「カランコロンカラン」が実に似合うふたりを、小宮山さんが冷やかした。
「お待たせ、お待たせ!」
小室さんもママレモンも、「ザコのことを一切気にしない」というような様子でその冷やかしを無視して
総理大臣が、各大臣を待たせて、最後に着席するかのように、カウンターに座った。
(この場合、ママレモンは官房長官とかなの?)

「小室さん!!!」
二度目の綺麗な親子ユニゾンで、一連の出来事の発端を突っ込んだ。

「早く着ちゃったみたいで」
小宮山さんは、よく来てくれました、という様子。
「当たり前だのクラッカー、ペーペーは30分前行動って決まってんのよ!」
ママレモンにおちょくられて、「はい」としか言えない小宮山さん。
(ママの存在って、何?)(やっぱり、偉い人なのかな?)

「ペラペラと余計なことを話すのは止めてもらえますか!」
私の言葉に「なにがっ!」という顔で威圧する小室さん。
「人のこと話さなかったら、俺、何を話せばいいの?逆に!」
「そうよ!」
「ママレモンは黙っていてもらえますか!」
「レモンママでしょうが、あたしゃ、詰め替え用もあるよ、か!」
小室さんのバックを受け取り、自分のバックと合わせて空いている席に置きながら、新しいパターンの切り返し。
(なにげに、腕を見せるママ)

「いやあ、小宮山がよ、お祭りを盛り上げるのによ、どうしたらいいかって悩んでてよ、ママ、ホットね!」
「そこで、私たちが何とかしてあげようってことになったわけ、ホット、私もね!」
「有難うございます。」
「それで?」冷めた言い方の私。
「何?ツメテエ言い方じゃねえ?」
「何?誰のおかげで大きくなれたと思ってんの?」
「別に、ふたりのおかげじゃないですど」
「あれれっ?」とふたり。

「そういうこと言うの?」
「いっろいっろ、教えてあげたの、忘れたわけじゃないだろうね!」
「いっろいっろな」と、うなずき合うふたり。
「ま・じ・で?」小宮山は鵜呑みにして。
「そんなおぼえありません。」
「あれれっ?」と、さっきより強調するふたり。

「そんなこというの?」
「何がっすか?」
「お母さんがいるところでお前の初体験の話をしたっていいんだぞ!」
「いいんだよ!」
「忘れられない、あの日のことを話したっていいんだぞ!」
「その相手が私だってことを言ってもいいんだよ!」
「えっ!?」またまた鵜呑みの小宮山さん。

「な、わけないでしょ!」
「だよね〜」
「ありえないでしょ!」
「そりゃそうだよね!」
「どういう意味だよ!」小宮山さんを殴るママと、大爆笑の小室さん。
「なんであんたも笑ってんの!」
「すいまめ~ん」軽くあやまる小室さん。
(すっかり古いことに気づいていない)

「どうぞ」コーヒーを差し出す母に
小宮山さんは、おかわりを注文しながら、本題に入りたいけど、きっかけがわからないままのそわそわした感じで
「テレビの仕事をしていたっていうのは本当でしょ。」
「まっ、こいつはTV番組の構成を、まっ、聞こえはいいけど、たいしたことじゃ…、でもなんだっけ、あの人気番組!」
「そうそう、何だっけ?」合いの手命のママレモン。
「人気番組なんてやったことないですよ!」
「あれ、やってないの?」
「やってません」
「あれっ?そうだっけ?」
「どういうのを人気番組っていうんですか?」
「ゲバゲバ60分とか?」
「古っ!」
「女の60分とか?」
「それも、古っ!」
「60分から離れて!」
「30分だっけ?」
「そういう問題じゃない!」
「うるさいよ!ふたりとも!」
突っ込まれるためにやっているふたりは大爆笑で、次のネタに入ろうとしているぐらい。
(出番に飢えてる若手のお笑いか!)

小宮山さんはどんな番組なのかに興味があるらしく
「お母さんは知ってるでしょ?」
「この子、そういうの言わないから」
「そうですか。」
「・・・・・」
「そう、この子は昔っからそういう子で、運動会とか受験とか1人暮らしとか、全部自分でやっちゃうような子だったの!」
「そうそう、なんでママが知ってるの?」
「そうだよ、なんでお前が知ってるの?」
「知っているわよ、何でも、だから、私が最初の…」
「違うっつうの!」
(かぶせるのが妙にうまい、ママレモン恐るべし)

「この子を青年部に入れて何をさせようっていうんですか?」
全員が沈黙して、そうそう、その話って顔で小宮山さんを見た。
「何をさせようっていうの?」
「言ってみろ、こら!」
何故か責め立てられた小宮山さんは
「いやいや、何を、って、納涼祭りをね、なんとか盛り上げてもらいたいと思って。」
「盛り上げる?」
「盛り上げる!」
「盛り上げろよ!」
「盛り上げなさい!」
「はああ?」
テンポのいい一人一言にびっくりしながら、
「あんた、そんなことできるの?」という母に、「いや〜」というのが精一杯の私。
「できないの?」
「できないの?」
「できないの?」
今度は、何故か責め立てられる順番が私になり「わかんねえよ!そんなの」
「わかんないの?」
「わかんないの?」
「わかんないの?」
(ここでコントやってどうする?)

母が唯一、コントには参加せず「納涼祭りってお盆の?」
「はい。」
「もうすぐじゃない?」
「そうなんですよ」
「じゃあ、無理でしょ」
「いやいや、今からなら間に合いますよ!」
「もう5月よ」
「・・・」
(そう、もう5月、なんとも時間が無い)

「いいから入隊しろよ!」ただ、しゃべりたい小室さん。
「入隊って、青年隊じゃないんだから」
「野々村誠とか長江健次とかの」
「長江健次じゃねえよ!」
「なっ!」
「それ、真似してんの?」
「たぶん、羽賀けんじとケンジチガイだし!」
「青年・部・ですし!」
「ガタガタいってねえで入れよ!」
「ガタガタいってんのは、あんたらでしょうが!」

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コントにもそろそろ飽きていた頃、書店のお客様がマンハッタンに。
私は、そそくさと書店に戻り、旅行に行くというそのお客様に、旅先の情報本を案内してレジを済ませた。
このまま、すぐにマンハッタンに戻るのも面倒だし、どうしたもんか、と思い、親父にTELをしてみた。
コールはするけど、出ない。
(あれは、何をしているのやら)

カフェのカウンターでは
「俺に任せとけ」とかなんとか言っている小室さん。
西川のりお風に「ま・か・せ・な・さ・い!」とかなんとかやっているママレモン。
「なんとか盛り上げたいんすよ!」とかなんとかいいながら、ふたりにからかわれている小宮山さん。
そんな様子が容易に想像できた。
(新喜劇マンハッタン劇場)

納涼祭りというのは、役場前の広場で毎年行われる、盆踊りと打上げ花火のこと。
僕が子供の頃は楽しみにしていたような気がするけど
最近はしょぼいといえばしょぼいお祭りで人も減っているし、予算も無いだろうし
なんか関わって「芸能人を呼べ」みたいなことを言われても困るし、そんなことに関わりたくないなと思っていた。

このままどっか出掛けちゃおうかな、というところに、母からメール。
「逃げるのか」(絵文字無し)

仕方なしに、私はマンハッタンに戻った。
「なんとか盛り上げたいんすよ!」
「だから、俺に任せとけっつってんの!」
「ま・か・せ・な・さ・い!シャッ、シャッ、シャッ」
(全く、想像どおりなんですけど…)

「なんか、こう、水着の女が物凄く集まるようなお祭りにしたいな〜」
「それは海でやれ!」
「そっか、そっか、そっか」
(全く、真剣みが無い…)

「あの〜、ゆかた美人コンテストってどうでしょう?」
小宮山さんは、長年温めてきたものを披露する、誇らしいようで恥ずかしいような顔で話した。
さっきまでのコント風では無く、一応、言葉を選んでいる時間が流れた。
「ほう、それいいかも!」小室さんが、我慢しきれずに大声で言った。
「でしょ!?」
「おんおん、いいんじゃない!」
「いいんじゃない!私、出てもいいわ!」と、ママレモン。
「高堀君、どう?」
「私、出てもいいって!」まとわりつくママレモン。
「どう、なんとかなりそうかな?」
「だから、私、出ても」
「ママは黙ってて!」と、全員で。
「何だと!」と、小宮山にチョプするママレモン。
「すいません、すいません。」
「いいじゃん、いいじゃん!ママみたいなのも出ていいし、もちろん若くて可愛い子も出ていいし!」
「私みたいのってどういうの?どういう意味?」
「いや、ママみたいな、その~着物が似合う年代って意味だと思いますけど・・・」高堀のギリギリフォロー。
「最高だよ!それ最高!」勢いだけの小室。
「じゃあ、私出る!」勘違いのママレモン。
「最高だよ!それ最高!」
「最高じゃん!それ最高じゃん!」
「がんばろうぜ!」
「うん、私、頑張る!」
(とにかく楽しんでいる3人、ママは少し楽しみ方が違うけど…)

「高堀君はどう思う?」
「…」何も言えない高堀。
「ねえ?」
「今さら、ミスコンをやって盛り上がりますかね?」
聞かれたから答えたまでで、という風にキッパリと言ってみた。
三人は少し悲しげな顔になって
「盛り上がんないかな?」「盛り上がんないの?」「なんでだよ!」
あまりの詰め寄り方にも、逆に冷静に高堀は続けた。
「ゆかたとか藍染の生産が多い土地とか、そういうイメージがあるなら引っ掛かりもあるでしょうけど・・・。」
「それを盛り上がるようにするのが仕事だろうが!」
「そういう仕事じゃないし」
「仕事じゃないとしないのか?」
高堀は、無言のままタバコに火をつけた。
「何とか頼むよ!」「何とかしろよ!」
「私をグランプリにさせてよ!」

「何ともいえませんけど。」
「かっこつけやがって。」
「別に…」
「ま、ちょっと考えてよ。」
「考えてって言われても、イベントには予算もあるし、趣旨とか目的とかが曖昧なままでは…」
どれだけ意味が伝わるかを気にせずに、

母は参加せずに、ただ笑顔でこちらを見ていた。
自分の流されやすい性格が憎かった。
母はそんな僕を見ながら(嫌な所だけ父親に似たわね)とでも言いたそうな顔で、小室さんにおかわりのコーヒーを注いだ。

つづく
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