全国商工会青年部連合会
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連続小説 商工BOYS 第4回 〜青年部入部編〜  著:栃木県青連 高野ゆうじ
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もしも、私が湘南に生まれていたなら、サーファーになっていたかもしれない。
苗場に生まれていたなら、スキーヤーになっていたかもしれない
両国に生まれていたなら、力士になっていたかもしれない。
(そうかもしれないね〜、・・・・・なれるか!)
(1人・乗りツッコミが好きなもんで…すいません)
(乗ってけ乗ってけ乗ってけ両国…もういい?)

実際、栃木に生まれたので、ゴルファーにならねばなるまいと、帰郷してすぐゴルフを始めた。
(ホントにそんな理由です)

「すると、どういうことでしょう!ゴルフが、こんなに面白いとは!」
「なんということでしょう!打ちっ放しの練習でさえ、こんなに面白いとは!」
(ゴルフ生活、ビフォアーアフター風ナレーションでお送りしました)
(BGMは各自お願いします)
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ゴルフを始めてすぐに感じたのは
フリー麻雀にハマった時に感じたものと似た、ただ面白いだけではなく
「ゴルフは哲学」「ゴルフはメンタル」「ゴルフは自分との闘い」
そんな、よく耳にする表現通りの「奥深さ」と「手強さ」。

多少のラッキー・アンラッキーも含めて、その結果のすべての要因が自分にあって
上手くいこうがいくまいが、すべて自分。いいわけも、理由も都合も、すべて自分。
こんなにスキなのにつれない、歯がゆい恋心のような
肝心な時に上手くいかない、人生の試練のような
結果がすべての、社会の残酷さのような
「たら・れば」が訊かない、勝負の世界の厳しさと、逆にその現実から逃げられない
まさに、「因果応報」の潔い気持ちよさ。

そして、正解も答えも決してひとつとは限らない一打の選択を、瞬時に探るスリル
ベストショットも空振りも同じ一打に数えられる、理不尽にさえ感じるシンプルさ
3歳児でも還暦でも、体育会系でもアキバ系でも、公平に楽しめるフェアなルール
その間口の広さと可能性の奥行き、生きている実感
こんなに面白いのに、なぜ今までやらなかったのかと、何かに急かされているように練習をしないではいられなかった。

ゴルフを始めたことでいろんな発見もあった。
例えば、 飽き性で怠け者だと諦めていたのに、そんなこんなで、週に5回6回と練習場に通い、
「練習なくして上達はなし」なんていう、ちょっと前までなら考えられない言葉でさえ、フムフムとウナずけるくらい地道に練習したりする、自分の新たな一面を発見できたり。
(勉強もそんな勢いでやっていれば…、まっ、ゴルフだけかな〜)
父がシングルプレーヤーだとわかり、初めて父を尊敬の眼差しで見ることができたり
それをきっかけに、話す機会も断然増えて父の新たな一面も発見できたり
そこで、初めて親子になれたような気がしたり。
(それまで感じていないのが問題だけど…)

ゴルフのおかげで、帰郷した意味も、一応はあるな、とか思っていた。
それは、一人暮らしを長くして感じた「金を稼ぐこと」「生活をすること」「大人になること」
そういうことの難しさを痛感して帰郷したからこそなのかな
故郷や家族のありがたみがわかるようになったからこそなのかな、とか思ったりもしながら…

その日も、「ゴルフって素晴らしい!栃木って素晴らしい!」と必要以上に自分に言い聞かせて
いつものように麦茶を入れた大きいペットボトルを持って、首にタオルを巻いて練習をしていた。
(そうなるといっぱしのアスリート気分)

「まだ、スライスだな〜」
親父が入り口からこちらへ向かってきているのはわかっていたので、この前言われた「ボールの位置」に気を付けて打ってみたのだが
来て早々、親父のチェックが入った。
「つかまえてる感触あるか?」
「いや、よくわかんない」
親父は首をかしげながら「振りすぎ、かな?」とボソッと言い、打席後ろの座席に座り
「少しふり幅を小さくする意識で、ちょっと打ってみい!」
私は、腕が体に巻きつくようなイメージで、ハーフショットに近いドライバーショットをした。
すると、それまでのそれとは違う芯を食った打音と、それまでには感じてなかったいい感触を残して
それまでとは違ういい角度で玉は飛んでいった。
「芯にさえ当たれば、ふり幅に関係なく飛ぶっつうこと」
「・・・・・はい」
「いや、飛ばしたい気持ちはわかるけど、まず、芯食わねえと…」
「・・・・・はい」
「それから振ってけば、いいっつうこと」
「・・・・・はい」
親子というより、コーチと生徒として会話をしながら、奥にあるネットを見ながら練習を続けていた。
(親父の言うとおりにしていれば、実際上達するような気がして、俺、案外、素直)

「ナイスショット!!!!!」
(声デカッ!?何?下品だな〜)
どこかの誰かが、どこかの人に叫んでいるのだろう、くらいに思っていた。
(そういう人、たまにいるので)
見るでも見ないでもなくゆっくりと父の方を振返ると、相変わらずのすり足であっという間にすぐそこまで来ている小宮山さん。
(デンジマン再び!)
叫んでいたのは確実に小宮山さんらしく、またしても「してやられた感」と「面倒くさい感」。
(まさか、アノ話をしにきたわけじゃないだろうな)

「どうも〜」
(その声もデカイし!)
小宮山さんは、私にというより親父に向かって挨拶をした。
「あれ?どうも」
仲がいいような、他人行儀のような、どちらとも取れるいい塩梅の挨拶をして、親父は立ち上がる気配だけで済ました。
私はなんとなく会釈をして、同じく会釈する親父の隣に座った。
「どうぞ、どうぞ、練習続けてください」
(そう言われてもやりづらいんですけど…)
「気にしないで、気にしないで、どうぞ、どうぞ!」

「小宮山さんは練習しないんですか?」
「いやあ、みんなで練習しようってことになって、ほら、あそこにいるでしょ!」
小宮山さんは、奥の方で練習している人たちを指差した。
「・・・・・あ、そうですか、じゃあ、どうぞ、どうぞ!」
(みんな?誰だろう?)(ま、たぶん、青年部だろうな)
「いやいや、気にしないで、気にしないで」
「気にしないというか、一緒の皆さんも青年部ですか?」
「あれ?何でわかったの?」
(誰でもわかるでしょ…)

「おおい!みんな挨拶に来て!」
バタバタ走ってくる運動オンチ風と、スポーツをするのに相応しくない服装が、明らかに「ゴルフをしたことない感」たっぷりで
このためにここに集合したんだろうな〜という、「やれやれ・トホホ」な感じ…

「山本です」
「大淵です」
「木内です」

「…どうも、高堀です」
簡単に、実に慣例的にだが挨拶を済まし、これで練習を続けられるかな、と思いきや、小宮山さんは父と話しこみ始めた。
(そっちから攻めるか)
3人は、「どうすれば?」というウロチョロの後、自分たちがそれまでいた打席にそそくさと帰って行った。
(そりゃあ、そうなるでしょ)

「高堀さんも練習するんですか?」
「まあ、もうめったにしないけど、せがれの付き合いでね」
「高堀君もお父さんみたいにシングルさんになれそうですか?」
「いやいや、まだまだ」
「町民ゴルフ、そろそろじゃないですっけ?」
「あ、そうだね」
「また、優勝しちゃうんじゃないですか?」
「いやいや、うまい人、いっぱいいるからね!」
(基本的にはお世辞攻撃か)
(まんまと乗りやがって、親父も)
(乗りやすいんだよな、うちの血筋)

山本さん、大淵さん、木内さんの3人は、少し離れたところで練習モドキを始めた。
そのアドレス、或いは一球でも打球を見れば、大体どんなレベルかが想像つくが、3人とも完全な素人丸出し。
(もちろん、私も素人ですけど…)
小宮山さんに連れてこられたとしか思えない、まるで練習場に来るタイプではない、危なっかしいったらありゃしない感じ。
さらに、誰かが一球打っては、こちらを覗き込むような感じ。
(もう、帰ろうかな)

「高堀君に、商工会青年部に入ってほしいんです〜」
「ああ、それで来たのか」
「いやいや、そういうわけじゃなくて、今日はたまたまなんですけど」
(うそつけ、うそ)

たまたまその時、ドライバーでいい球が打てた。
たまたまその時、小宮山さんがそれをジャストで見ていたようで、「ナイスショット!!!!!」と
練習場全体に響き渡るような大声で叫んだ。
それにつられるように3人も「ナイスショット!!!!!」と、その大声で叫んだ。
それはそれは、私たち親子の打席にひんしゅくの眼差しを集中させる場違いぶりで。
(勘弁してください)

「今のいい球だったね!」
「・・・・・周りの人の迷惑になるから、あんまり大きな声をだすのはどうかな!」
意外とマナーにうるさい親父が、意外と強く注意をした。
「あわわわ…、すいません、すいません」
盛り上げるための大声を、まさか注意されるとは思ってもいなかった小宮山さんは
見るからに意気消沈して、3人のところへ退散した。

顔を見合わせながら小声で相談をしている小宮山さんたちの様子を
私は見て見ぬフリをしていつものペースで練習を続けようとしたが、なんとなく集中できずに
タバコを吸いながら麦茶の最後まで飲み干した。
(逆に気〜使うわ)

「青年部に入るのか?」
「いや〜、まだよくわからないからな〜」
「まあな、・・・・・俺、腹へったから帰るけど」
「ああ、・・・・・ねえ、どう思う?」
「何が?」
「青年部」
「知らねえよ、そんなの自分ですきにしろ!」
「ああ」
「じゃあな、先に帰るぞ!・・・・・今日、カレーみたいだったぞ!」
「ああ、少し打ったら俺も帰るよ」
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親父のそういうところ、放任主義者というか、無責任というか。
ゴルフだけはちゃんと指導するくせに、それ以外のことは全く。
進路相談とか、やりたい職業とか、そういうことを話し合ったこともないし、言われたことも聞かれたことも無い。
いつも「好きなことを好きなようにすればいいんじゃないか」とでも言いたそうな顔で。
父親と息子の距離って、それぐらいがちょうどいいのかな〜、とか思いながら
ドライバーからすべての番手をすべて3球ずつ打って、練習を終わりにした。
3番アイアン、4番アイアンも、ふり幅を意識して打ったからか、いつに無くいい打球が出て
そうは言っても、肝心なところだけはしっかり観察されているのかな〜とか
親父のことを思った。

たばこに火をつけて、グローブを脱ぎながら座席に座ったところに、小宮山さんたちが来た。
すっかり集中していて、みんなの存在を忘れていたけど、そういえば…。
「もう、終わり?」
「はい、ちょっと疲れました」
「これ、飲んで!」
小宮山さんはスポーツ飲料のペットボトルを差し出した。
「いや〜」
「飲んで、って言っても、まだ凍ってるから、少ししか飲めないけどね」
「えっ?なんで凍ってるんすか?」
「夏のゴルフの時は凍ってるペットボトルの方がいいって、店員に言われて」
「・・・・・それはラウンドする時でしょう!」
「そういうことだろうね〜、さっき気づいた、夕方からの練習に持って来ても凍ったままでした〜」
「・・・・・」
「いいから貰って!」
「じゃあ、遠慮なく頂きます」
(うわ、一口分しか出てきませんけど…)(でもって、その一口が、甘っ!)

「入部、どうだろう?」
「ええと〜・・・・・土日で考えます、来週にでも…」
「わかった、わかった、じゃあ週明けにお茶飲みに、また行くよ!」
「すいません、お願いします」

「じゃあ、お疲れ様でした」
バックをヨッコラショっと肩に担ぎ
「お疲れ様でした」「お疲れ様でした」「お疲れ様でした」
ひとりひとりの顔を見ながら、ひとりひとりに挨拶をして僕は帰った。
「お疲れ様でした」
全員で声を合わせて、でも、大きすぎない遠慮した声でみんなは私を見送ってくれた。

ゴルフは、アプローチが非常に重要な一打だが
小宮山さんの入部アプローチは、見事な程に、「下手」そのものだった。

でも、わざわざココまで来て勧誘をすること、自分が入部したところで何ができそうなのか
それが、そこまでの価値があることなのか、ということ
車のトランクにバックを積みながらあれこれ考えて
これから新しいコースに向かう挑戦者のような、新鮮で緊張感のある、懐かしい胸騒ぎを感じていた。


つづく
全青連メールマガジン2010.8月号
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