全国商工会青年部連合会
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連続小説 商工BOYS 第6回 〜青年部入部編〜  著:栃木県青連 高野ゆうじ
タイトル
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「あったど〜↑ 喫茶店の生きる道、名古屋にあったど〜!」
私が、高校3年の夏、全国の喫茶店巡りを趣味にしているお袋が
2泊の1人旅から帰ってきて、始めに発したのがこの言葉。
(あったど〜って言い回し、最近の流行語のような気がするけど…)(まあまあまあ)
お知らせ看板
お店のドアに、どこの業者に造らせたのか手の込んだ嘘っぱちプレートを吊るして
常連客に「ブラジル?それともアフリカ?」「買い付けか〜、それならしょうがないわ」と思わせて
(思うかね?)
お袋が、ぶらっと旅に出たのが何度あったことか憶えていないが
「お帰り〜、あ、今回は名古屋に行ってたんだね!」
いつも旅先を帰宅してから知らされる親父と、お土産の「ういろ」を食べたことをよく憶えている。
それは、「ういろう」では無く、「ういろ」と書いてあることにインパクトがあったこと
そして、お店にとって、革新的かつ画期的な転機だったから。
それ以来、マンハッタン・カフェで名古屋ではお馴染みの「モーニングサービス」が始まった。
(革新的は大袈裟かな)
モーニングサービス(未登録)
私は、都内から少しおセンチな、少しブルーな気分に浸りながら
「モーニング」のお客様がチラホラいる時間のマンハッタン・カフェに到着した。
勝手にハードボイルド気取りで、勝手にハートブレイク風で…
(少しナルシスト?)
人生の岐路において、男は案外そういうもの。

「カランコロンカラン」
駐車場から私が来るのを見ていた亜紀ちゃんは、鈴の音がなるや否や
「おはようございま〜す! 朝帰りのお坊ちゃま!」
新人お天気お姉さん顔負けの鼻に抜けた声で、私をからかった。
バイトの亜紀ちゃんと初めて会った時、「お姉さんと2人姉妹」と聞いたので
私を「本当のお兄さんみたい」に慕って、
馴れ馴れしい態度なのだろうと思ってガンガン食い込んで来るのを受け入れていたが
どうやら誰にでもそうらしく、人懐っこいいい子だが、勘弁してほしい時がたびたびある。

「そういうのいいから!おとなしくHOTちょうだい!」
私は、そのテンションを断固お断りしたつもりだが
「朝帰りのお坊ちゃまから〜オーダー入りました〜!ママさん、ONE・HOTで〜す!」
(いい加減にしてくれ↓)
「は〜い!じゃあ、苦み走ったHOT、お待ちくださ〜い!」
(なんで合わせるかな、母よ↓)

カウンターの隅にいる女性客も窓側にいるお客さんも知らない人なのを軽く確認していたので
このやり取りを聞かれても「まあいいや」と油断していたが
トイレの戸がゆっくり開いて、一拍おいて小田さんが現れた。
「いいね〜、朝帰りか〜、いいね〜」
いつものように、長いトイレタイムを過ごしてきたらしい小田さんは
(新聞を持ち込むのはやめてほしい…)
亜紀ちゃんに食べ終わった皿を片された後の、コーヒーカップだけが置いてあるカウンター席に座りながら
地響きがしそうなほどの、腹の底からの声で何度もつぶやいた。
「いいね〜、朝帰り、いいね〜」
(何なんだろう、この放っておいてくれない感)(汗)

「そんなんじゃないっすよ!」
あまりにシツコイ繰り返しに、私はいい加減訂正したが
「いいから、いいから!青春、青春!とびだせ青春!」
小田さんはきかない。
「朝帰りったって、ただ単に、朝帰って来たってだけっすよ!」
どうせ聞いていないとしても、一応念を押して抵抗した。
「いいから、いいから!青い春、青い春!とびだせ!つくしんぼう!」
面倒な人の登場に、ここにいてはゆっくりコーヒーも飲んでいられない、と私は即断して
「じゃあ、ごゆっくり!」
自宅の方に戻るからコーヒーをそっちで、と母にサインをしようと立ち上がりかけたところで
「まあまあ、たまには付き合えよ!話もあるし!」
小田さんに真顔で引き止められた。
「また今度、いや〜、昨日はちょっと呑みすぎたみたいで…」
ここはなんとか逃げ切ろうという、精一杯の抵抗をしたが
「待ってたんですよ、小田さん」
亜紀ちゃんの小田さんサイドの援護射撃。
(亜紀ちゃん!)
「そうよ、待ってらしたのよ!」
コーヒーをカップに注ぎながら、母までが…
(ブルータスに次いで、お袋、お前もか?)

私は、味方のいない防戦一方のまま、前に置かれたコーヒーの揺れる表面を見つめて
その揺れの治まりと同時に観念した言い方で
「じゃあ、トースト焼いてもらえる?」
ゆっくりと優しく伝えた。
その数秒の沈黙を見守っていたみんなは、解禁とばかりに一斉にしゃべりだした。
「トーストは何枚?」
「サラダとたまごも食べる?」
「じゃあ、俺ももう一枚食べようかな!」
「かしこまり!」
「アイアイサー!」
(ここは何でも言ったもん勝ちの、喫茶しゃべり場か!?)

私は、ダラダラこのペースに付き合うのが嫌で、早速切り出した。
「小田さん、話ってなんですか?」
小田さんは調子に乗ってアドリブで返した。
「いやあ、朝まで誰といたの?」
「はあ?」
「知りたい、知りたい!」
亜紀ちゃんとお袋が、いらない相槌を入れた。
「パシャ・パシャ!お付き合いしてるんですか?答えてください!パシャ・パシャ!」
手でエアーカメラをしながら芸能記者のマネをしているつもりの亜紀ちゃん。
「朝からどんなテンションなんだっつうの!?」
「いいから答えてください!」
「答えませんし!!!男友達ですし!!!」
「答えてるじゃん!」と亜紀ちゃん。
「いいから、ウルサイ!」
お袋は対応能力があるのか、一緒にいる人の波に乗るのが上手で、時としてウザイ。
亜紀ちゃんは雛壇芸人が調子に乗った時バリにかなりウザイ。
「お袋!もう、この子ウルサイからやめさせて!!!」

「亜紀!シツコイよ!やめなさい!」
それまで何も発しなかったカウンターの隅で新聞を読んでいた女性が、急に亜紀ちゃんを叱った。
「え?え?え?え?え?」
「すいません、亜紀がご迷惑をかけて…」
「亜紀?亜紀?ご迷惑?ご迷惑?」

亜紀ちゃんは、叱られているのに至って冷静に
「あれ?お姉ちゃんと会ったことなかった?」
「お姉ちゃん?」
「姉なんです!ヨロシクお願いします!」
「ああ、そうですか」
亜紀ちゃんが間に入って仕切ることの違和感はあれど、ぎこちなく挨拶を交わした。
「亜紀の姉です、芳村といいます、お世話になってます」
(似ているといえば似ているような…)
「いやいやお世話になっているのはこっちの方で…、今のは、冗談というか、気心が知れた仲だからであって…」
「いや、生意気な子ですいません、失礼なことを言ったときは叱ってやってください」
(じゃあ、叱りっぱなしになりますけど…)

亜紀ちゃんのことは、宇都宮の大学に通うバイトの子で、お姉さんがいるのは知っていたが
母がとにかく可愛がっていて、とにかく元気な子で、よく考えるとそれ以外は知らない。
でも、そのお姉ちゃんがカウンターにさっきからいて、いろいろ聞かれていて
(綺麗な人だな〜、落ち着いていていいな〜)
朝から頭がこんがらがるような展開。

「あのさ〜、小宮山らに頼まれてさ〜」
そんな状況なのに、小田さんはマイペースで「やっぱりその話か!」を切り出し始めた。
(空気読んで、もう少し待てよ!)
亜紀ちゃんは、他人事の無責任さと、係わりたい当事者ぶりで
事件が起きた時にインタビューを受ける近所の人顔負けの厚かましさ。
「商工会青年部入部の話ってことですよね!」
「・・・・・」
「どうするんですか?」
「・・・・・」
「今日、はっきりさせた方がいいんじゃないですか!」
「・・・・・」

私は、コーヒーを一口飲み、そうでもしないと状況を整理できそうになくて、逆に聞いてみた。
「小田さんはどう思います?」
「逆に?俺に聞く?」
「聞く!」
小田さんは目を細め、遠くを見つめながら
「Hum、俺もさ〜、元青年部長としてはさ…」
「えっ、そうなんすか?」
小田さんも青年部の人とは、さらに思ってもいない展開…。
「あれっ、知らなかったの?だから頼まれているわけでしょうが!」
「・・・・・ああ、そっすか!」
仕切りなおしてもう一度、遠くをみつめながら
「是非、入って欲しいね!」
トーストにバターをぬりながら、亜紀が続いた。
「私も入って欲しいな〜」
自分の説得で、この話が決まりそうな手ごたえを感じた小田さんは
次の一言で決めるぜ、という間合いで
「みんな気持ちのいい奴だよ!俺が言うんだから信用してよ!」
「・・・・・」
「あれ?俺が信用できない?」
食い気味で私と亜紀ちゃんは答えた。
「できない!!!」

大笑いする亜紀ちゃんと母、気を使いながら笑う芳村、苦笑いの小田
小田さんの「お茶目話」で盛り上がった。
(しかし、楽しく話す人たちだこと…)
私は、何度も聞いた小田さんの話なので、会話に参加せずに出されたトーストを一口食べながら
もう少しバターぬってほしいな〜とか、蜂蜜貰おうかな〜とか、トーストの味を考えていた。
「あれ?何?なんで黙ってんの!」
どの立場なのか、誰のポディションなのかわからないが、亜紀ちゃんに叱られた。
「いや、もう少し…」
「もう少し?」
「もう少し、バターぬった方がいいと思うよ、このトースト」
「トーストの話かい!!!」

「そう!そういうことだよ!高堀君には青年部のバターになってほしいんだよ!」
「・・・・・」
完全にうまいところでうまいこと言った風の小田さんだったが、全員一致でスルーした。
「イチゴジャムあるけど〜ぬる?」
「蜂蜜の方がいいな!」
「贅沢ですね!」
「サラダとたまごは?」
「あれ!出すの忘れてた!」
「なんだよ、忘れるなよ!」
「例えたんだけど、バターじゃない方がヨカッタかな?」
(そういうことじゃない!)
小田さんが可哀想に見えたのか、亜紀ちゃんが
「構成作家だったんでしょ!軽く考えて、軽く手伝ってあげればいいじゃないですか!」
「おっ、そういう軽い感じでいいじゃん!」
亜紀ちゃんの提案に小田さんも乗っかり、「軽く!軽く!」で2人は盛り上がっているので
軽く釘を挿すつもりで
「いやっ、簡単に考えているけど、イベントって、しかも野外のイベントって、難しいんだよ!」
「だから考えて欲しいんじゃん!例えばどうすればいいの?」
「例えば?」

例え、と言われて、私は少し大袈裟に例え話をしてみた。
「例えば…、小宮山さんは、ゆかた美人コンテストをやりたいって言ってたけど
ステージをどう造るか、音響をどうするか、照明をどうするか
そういう基礎みたいなところから業者とか予算とか段取りが大変でしょう。
まさかそれぐらいのことはわかっているんでしょうけど
コンテストに出る女性が集まってくるか、っていう、内容の部分に関しても難しい!
じゃあ、募集をして出たいって思ってもらうためにどうするか?
賞金なのか?商品なのか?それをどうするか?
司会はどうするのか?ゲストを呼ぶのか?野外なら雨が降ってきたらどうするか?・・・。」
(一同ポカン)
「予算とか体制とか、何を中心に考えるかとか、将来的にどう考えるかとか
そういう難しい問題を青年部が仕切れるのか?
一回目っていうのは想像していなかったことも起こるだろうし!時間が無いでしょう、大体!」
(一同ポカン)

小田の携帯が鳴って、小田は「ああ、早く来れば!」と簡単に電話を切り
「いろいろ難しいんだわね!」
急に慎重な顔で亜紀ちゃんを見た。
「今の、誰ですか?」
「うん?」
「カランコロンカラン」
ドアが開いて小宮山さんが入って来た。
この人は、とにかく登場の仕方という、その一点に関しては異常。
(そこにいたのか〜)

「いやいやいや、コーヒーが飲みたくて飲みたくて〜HOTください!」
小宮山さんは、子芝居をしながら小田さんの横にチョイと座った。
「いらっしゃいませ!今の電話の相手でしょ?」
亜紀ちゃんは誰にでもツッコム。
「え?何の話?」
「どこにいたの?」
「・・・・・」
亜紀ちゃんの小声のツッコミをなんとかかわし、小宮山さんはお祭りの話に持っていこうとするが
「暇なんだわね〜」
「誰がじゃ!」
「お前がじゃ!」
「うっさい!」
しかし、小田さんにしても、小宮山さんにしても
亜紀ちゃんはいつの間にこんなにポンポン話せる関係になっているのだろうか?
(怖ろしいというか、頼もしいというか)
それを受け入れる関係性にも感心する。
(何なんだろう、この距離感)

小田さんは小宮山さんに
「それにしても時間が無いぞ!どうするんだ?」
そういわれても困る小宮山さんは
「高堀くん、今日の夜、なんか用事ある?」
「へえ?」
「ちょっと、そのいろんな問題について一緒に考えてくれないかな、どう?」
「今夜ですか?」
「うん、今夜」
入部の話を飛び越えて、会議参加の話になっている。
(・・・やばいかも・・・)
(今夜は行けないんです、が今更通るだろうか?)

小田さんと亜紀ちゃんが面白がりながらはしゃいでいる。
「何かが始まる感じじゃない!」
「うん、そういう感じ!」
「へい、へい、へい!」
(行くしかないかな…)

「あれ?芳村さん!」
「どうも」
小宮山さんは顔見知りらしい亜紀ちゃんのお姉ちゃんと挨拶を交わし
「芳村さん、今夜、予定ありますか?」
「今夜ですか?」
「はい、今夜!」
「何かあるんですか?」
「夏祭りの会議をするので広報誌に載せてくれないかな!会議風景!」
「ああ、今月号、記事が少ないのでいけるかもしれないですけど、課長に聞いてみます!」
(あれ?亜紀ちゃんのお姉さん、行くの?)
(行くしかないわな…)


「踏み込ませずに踏み込まず、常に逃げ道を残し、逃げたり逃がしたり」
「遠慮したり、けん制したり」「かわしたり、すかしたり」
10年以上都内暮らしをして、それが普通になっていた適度な関係性と適度な距離感
その慣れ親しんだ人との係わり方とは全く違う、土足でズカズカ入り込む人たち。
(少しわずらわしいし、若干ウザイんですけどね、実は…)
そんな手を広げて迎えてくれる、むしろ踏み込んで迎えに来てくれる心地よさに
私は戸惑いながらも、その体温を感じる接し方に、どこか新鮮な感覚を覚え
同時に故郷の温もりを感じていた。
(断れない高堀、ここも断れないかな…)
掲載全青連メールマガジン2010.10月号
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