全国商工会青年部連合会
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小説 商工BOYS 第11回 〜青年部入部編〜  著:栃木県青連 高野ゆうじ
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仙台、会津、つくば、那須、高崎、川越、成田、柏、諏訪、富士山
伊豆、金沢、豊田、岡崎、一宮、鈴鹿、堺、倉敷、下関
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「やっぱそれ!?なんでそれ!?」
2006年に導入された「ご当地ナンバー」、かなりの政治力・ちょっとしたノリ
採用された理由・見送られた理由、全国各地でいろんな思惑がいろいろだろうが
この追加で、日本には地域名表示ナンバーがいくつ存在することになったのだろう。
私は、一度も見ること無い地域名が存在するだろうな、と少し残念な思いで
「栃木」「栃」「宇都宮」「とちぎ」に追加された「那須」、それと「水戸」
ゴルフ客の「品川」「練馬」「春日部」「横浜」あたりのレギュラーの中で
希望ナンバーの数字の方に気を取られて日々過ごしている。
名前で決めたであろう「・1-30」「89-40」、願望込めて「23-23」「96-96」とか…
だからこそ、「レギュラー以外」を見かけるとなんだか無性にテンションが上がる。
(上がるっしょ!普通…)
「正月なんだな」「お盆なんだな」「ゴールデン・ウィークなんだな」ということで。
(当り屋かな?つう理由もあるけど…)
特に、「お出掛け」を心待ちしていた子どもたちや恋人・友達同士が多い夏の時期は
道の駅やコンビニ、Gスタンドでそれを見かける度、帰省か旅行かキャンプか温泉か
目的地はいろいろでも、その道中から始まっている楽しそうな風景が垣間見えて
笑顔全開夢満開の彼らから、幸せな気分のおすそ分けを頂けそうな気もして…。
梅雨明けが遅かったり分かり辛かったり、観測後一番の猛暑だったり冷夏だったり
ここ数年は異常気象そのものだが、人は天候に関係なくお出掛けを楽しむもの
「レギュラー以外」の車にはとにかく胸弾む何かが詰まっているっつうわけ。
だから、お祭りやイベントといった非日常に、人は胸弾むっつうわけ。

「すいません、商工会青年部の者ですが、ポスターを貼らせていただけませんか?」
「なんのポスターなの?」
「夏祭りのポスターなんですけど!」
「おお!じゃあ、いいよ、目立つところにバンバン貼っちゃって!」
レジャー客と入り混じりながら、幸せな気分のおすそ分けを頂きながら
僕たちは町内の店舗を中心にポスター貼りをして歩いていた。
「ゆかた美人コンテストだって!?おまえ、出てみれば!?」
「イヤだ〜、そんなの恥ずかしい!」
「優勝10万円て書いてあるぞ!」
「えっ?10万円!?」

ポスターを貼り始めてからあっという間に夏祭りの話題は口コミで広まった。
町行政で運営しているケーブルTVの広告も宣伝効果がかなりあって
「誰がコンテストに出場するらしい」とか「あの人が出たら優勝だろう」とか
「10万円がほしい」とか「お金で釣るみたいでどうのこうの」とか
いい意味でも悪い意味でもこちらの想定を超えて話しが一人歩きしていた。
「楽しみにしてるよ!」と言われることも多く、自然と部員みんなの意気も揚がり
順調に準備は進み、必要な備品も揃い、担当や連係も確認し合って
あとは前々日と前日の会場設営を待つのみとなっていた。
あとは、出場者と私が作る出場者紹介ナレーション込みの台本が揃わないだけ。
ところが、問合せや冷やかしの電話だけで、実際に出場するところまで話しが進まず
10名を予定しているエントリーが1人も決まらないまま1週間前をむかえていた。
(それには困りましたわ!)(汗)

コンテストはエントリー者に特別なことをして頂くわけでは無く
ゆかたを着て壇上に登場して頂くという、至って単純な内容。
子供を出場させると審査が難しくなるので、12歳以上というシバリは付けたものの
水着審査や特技の披露、その後1年間の拘束などがあるミスコンとは違い
出場することに、さほど抵抗があるとは思ってもいなかったが
「自分は平凡です」という、「なるべく目立たないことをヨシとする地域性」
「自意識が強い」「自分を美人だと思っている」と思われたくない「人間の防御反応」
そんな理由で「リスクを背負ってまで出場しよう」と思う人がいなかったということ。
尚更、定着していないのだから仕方無かったということ。
(自分に置き換えたら出ないし!)

私は「クイズに答えて100万円」という企画の素人参加番組のスタッフをしていた頃に
募集するだけで希望者が集まり、そこからの書類審査や面接で苦労した経験しか無く
「話題にさえなればそれですべては順調に進む」「なんとなく参加者は集まる」と
そこを深く考えずにいたこと、今までのような感覚では上手くいかないことに気付かされた。
ところ変ればやり方も違う、すぐに何か手を打たなければマズイと思った。
(あと1週間か〜)
下手な手も打てない微妙な時期だったので、事務局に任せていた電話対応に
「問い合わせ時のマニュアル」を作って、まず手ぬるいと感じるところを修正した。
@「ミスコンとは違い敷居は高くない」と思って頂き、必ず連絡先を聞くこと。
A当日の段取りを説明して前向きに話を進めること。
B逃げられる前に「担当者に」と話して、部長か私か司会の山本さんに繋ぐこと。
とにかく、電話の相手は、もはや取りこぼせないお客様だということを事務局に伝え
芥川賞・直木賞受賞の応接室で談笑して待つぎこちない空気にも似た
誘拐犯からの連絡で逆探知をする時にも似た、総動員臨戦態勢で待つことになった。

「最悪は〜、齋藤さんと高橋さんには出てもらわないとね〜」
「イヤだわ〜あたし!」
「…最悪ってどういう意味ですか!」
「…すいません、変な意味じゃないです…」
「……」
「そうだ!会員さんの娘さんとかに出て頂くのがいいんじゃないですか?」
「小野寺さんとこと薄井さんとことかね〜、可愛いって局長が言ってましたよ!」
「OLさんだけど、近所の吉田さんとこの子、可愛いよ〜」
「銀行窓口の、何さんて言ったかな〜、農協のあの子も!あれ〜なんて言ったかな」
「ああ、窓口も看護師・保育士、とにかくこちらでスカウトに行けばいいのか!」
「よし!早速行ってみます!一日一善、だ!」
(善は急げだろ!)
それから女性事務局と部長は思いつくままに町内の若い女性をノートに書き出した。
そして、整理される前に、私は部長に引っ張られて町内を回ることに…。
(急ぎ過ぎだろ!それで見つかればいいけど?)
部長はどの方面にも顔が広く、簡単に話しかけられる分、簡単に断られるの繰り返し
その顔の広さゆえに浅いのも間違いなく、収穫無く退散して商工会館に戻ってきた。
「部長!どうでした?」
「もう一押しすればいけそうな子もいたけどね!」
(誰のこと?1人もいなかった気がするけど…楽々断れてたくせに!)
さっきの盛り上がりでピークをむかえてしまった感が強く、みんなは意気消沈。
ただ、そこをなんとかしないといけない。出場者がいなきゃ成立しませんから。
そこで、広告やポスターへの追加コメントを5つ商工会館のプリンターで作成して
その日からみんなで手分けしてポスターの下側に貼り付けて歩いた。

@時給で言えば、いくらになるの?友達と出よう! ゆかた美人コンテスト!
A夏のボーナスはここにある!彼氏に進められて! ゆかた美人コンテスト!
B副賞の温泉宿泊券は親孝行限定!親に進められた? ゆかた美人コンテスト!
C夏の思い出はホンの少しの勇気から!自分で決めた! ゆかた美人コンテスト!
Dゆかたに着替えて!心も着替えて!ひと夏の自分探し! ゆかた美人コンテスト!

ケーブルTVの固定画面広告もコピーを足した内容に差し替えてもらい
部長とふたりでフリップを持って情報番組にも出演させてもらった。
とにかく、時間が無いのだからやれることはすべてやるつもりで。
それは「賞金目的でガっついてる」を「誰でもお金は欲しい」に換えるためと
「もう一押ししてあげれば一歩踏み出せるはず」の「一押し」をしてあげるため。
そして、誰にどう思われようと自分は何がしたいかのきっかけにしてほしい思い。

すると、具体的キーワードをキャッチした人はその機会(理由)を見つけてくれたようで
それまでに問合せの電話をしてきた人も含め、一歩踏み出して自分の名前を名乗る
前向きな人の電話がジャンジャン増え、あっという間にアンケート用紙が18枚。
人はホンの少しのことで勇気が出たりすることを逆に知らされたような気がした。
「これでなんとか行ける」という手ごたえと当日の構成が見えた私は
そのアンケート用紙を熟視しながら紹介コメントに必要な質問ポイントを考え
電話取材したり、会える人とは直接お会いしたりして、15名の出場者を決定として
最終の構成台本を作り上げた。
私自身も不安を抱えていたが、やれる自信のようなものが出たのは正直この頃だった。
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夏祭り前々日午後3時、部長と一緒に会場設営をするために向かった役場前広場には
すでに、商工会と観光協会の役員と事務局、町役場商工観光課が勢揃いしていて
工業部の役員さんのユニック車とウイングトラックが縦列駐車されていた。
強風にさらされて飛ばされそうな傘を抱え込むように、空を見上げてはみんな口々に
出かける前に情報番組で見た天気予報の台風情報について話し
「やばいよ!やばいよ!」「どうする?どうする?」「ざわわ…ざわわ」
リアクション芸人が本番前に大きな熱湯風呂の横に集合しているような風景で
これまた仕切る人不在の、何をしたらいいのかどう動けばいいのかの様相。
私たちはそこに紛れ込み、渡された軍手をはめたり外したりしながら待っていた。
「本降りになってきたぞ!」「振って来たな!」「ざわわ…ざわわ」
降り始めてきた大粒の雨でようやく岡部事務局長が大声で挨拶をした。
「おはようございます!」
「おはようございます!」(一同)
「一旦、商工会館に移動してください!今後の流れについて検討します!」
(えっ?そうなの?)

天気予報では、台風の通過は今日の夜半過ぎ、明日の朝方になる場合もあるという。
設営をするにもヤグラやテントが飛ばされては困る、当日設営でバタバタも困る
そもそも決行できるのかどうか、こればっかりはわからない…
大会議室に移動してみんなで話し合っても埒が明かず、降り続く大粒の雨を眺め
半ば無策の、「明日の様子で再検討しましょう」という言葉で解散となった。

仕事に戻った部長と別れ、私は客がひとりもいないマンハッタンで
普段はつけない小型の液晶テレビでニュースを見ながら最終原稿を構成した。
「台風の速度が遅くなっているようです、それに伴い降水量が増す怖れがあります」
天気予報士が神妙な顔で土砂崩れや河川の氾濫について注意を促している。
いつもならアラを探したい天気予報士だが、私はそれを真剣に聞きながら
自分の住んでいる地域で災害が起こるかもしれないと理解しつつ
どこか遠いところの話しのような気がしてならなかった。
ところが、雨風の勢いが一段と増しているのが手に取るようにわかるほど
屋根に突き刺さる打楽器のような雨音と強風が外壁や窓ガラスにぶつかる重低音に
経験の無い自然の驚異が身近で起きていることを感じずにはいられなくなった。
更に、ニュースで流れる地元から近い河川の氾濫は悪夢のような映像で
信じられないし信じたくないが、衝撃の事実を叩きつけられたようなもので
食事さえ取るのも忘れてその画面に釘付けとなった。

結局、次の日までその状態は続き、この東日本を襲った台風は記録的な大雨となり
県北部は600oを超える日降水量を観測し、30名を超える負傷者をもたらし
住家全・半壊及び一部破損130棟、床上浸水96棟、床下浸水1,972棟の被害
那須岳や八溝山地にはさまれた福島県と栃木県の県境付近の市町村では
大量の降水により中小河川が氾濫し、山間部からの大量の土砂を含んだ河水が
流域の人家や田畑などに被害を与え、今回は短期間に記録的な豪雨となったため
これら多量の河水が那珂川本川に流れ込み、雨が直接降った地域のみならず
下流域である茨城県などでも河川水位が上昇し、浸水被害をもたらした。
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「近隣各地で被害も甚大だし、お祭りは中止らしい」
「…そうですか」

「夏祭り実行委員会の執行部判断で祭りが中止」と部長から聞かされたのは
濡れた夏草の匂いとカエルの声が一斉に聞こえ始めた雨上がりの夕暮れ。
なかなか連絡が無いと思っていたが、喧々諤々の末の決定だったのかもしれない。
中止にするというのは無難である。無難になるだけの重大な要素もある。
部長からの電話を切って、私はさっき出来上がった台本を×しようとマウスを握った。
それは自分でナレーションする結果発表箇所のページで1番苦労したページ。
読まないのかもしれないと思うとなんだかわびしくて声を出して読んでみた。
読みながら、この祭りこのイベントが誰のためになぜ行うのかを考えて…。


【結果発表ナレーション原稿】
(BGM・80%ON)(照明・半分)
先祖の魂を弔い、収穫の富を願うこの夏祭りの夜に、浴衣を纏った女神達が集結した!
夜空に輝く幾千の星々よ、魅惑に光る満天の月よ、この美しく麗しい浴衣美人達を照らせ!
(BGM・MAX)(照明・MAX)
この中の誰が初代グランプリの栄冠をつかむのか!
真夏の夜の夢、商工会青年部主催 第一回 浴衣美人コンテスト結果発表!


私はさっき置いたばかりのケイタイを掴み、着信履歴の一番上の番号に電話をかけた。
「どうした?」
「部長!あの〜俺たちだけで、祭りやるのって不可能ですか?」
「えっ?お前も?まあちょうど好かった!」
「えっ?どういう意味ですか?」
「さっきからそういう電話ばっかりで、これから商工会集合だからヨロシク!」
小学生が帰宅してランドセルだけ玄関に放り投げてみんなのところに急ぐような
そんな懐かしい気持ちで、私は商工会館へ向かった。

みんなが集まるその遊び場で、みんなに早く会いたいその一心で…。



続きは最終話…
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商工BOYSが読めるのは「月刊青年部」だけ。
作者:高野ゆうじ栃木県青連前会長の新ブログはこちら。
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掲載全青連メールマガジン2011.6月号
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